仙台高等裁判所 昭和29年(う)738号 判決
まず、職権を以て原判決の没収の言渡につき調査するに、原審第一回公判調書、司法警察員作成の捜索差押調書及び小笠原喜平作成の鑑定書の各記載並びに原審において領置した証第一号の物件の存在によれば、被告人が所持していたフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤液百六立方糎は司法警察員により押収され、その中三十六立方糎が鑑定のため消費されたが、検察官は原審第一回公判期日においてその残量七十立方糎を証拠物として提出し原審はこれを証第一号として領置したことが明らかであるから、覚せい剤取締法第四十一条の三により被告人より没収すべきものは、被告人の所持していたものの残量として現に存在する右覚せい剤液七十立方糎でなければならない。然るに原判決は罪となるべき事実として、被告人が常習としてフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤液百六立方糎を所持していた事実を認定しながら、法令の適用を示すにあたり、右法条を適用して同液約七百立方糎は被告人の所持していたものであるとしてこれを没収すべき旨説示し、しかも主文においてその旨の言渡をした。もとより判決の趣旨若しく効力に影響を及ぼさない誤字脱字等の誤を補正して判決を解釈することは許容さるべきであるが、判決主文の趣旨ないし効力を左右するが如き補正的解釈は許さるべきではないと解するのを相当とするから、原判決の主文及び理由における右没収すべき物の量目に関する誤を単なる誤記と看做して是正するに由なく原判決はこの点においてその理由にくいちがいがあり破棄を免れない。
よつて、弁護人の控訴趣意に対する判断は後記自判の際自ら示されるのでこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十二条第二項第三百九十七条第三百七十八条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所は改めて次のとおり判決する。
当裁判所の認定した罪となるべき事実、前科の事実及びこれに対する証拠は、原判決記載の証拠の標目六中「約七百立方糎」とあるのを「七十立方糎」と改める外、原判決の示すところと同一であるから、これを引用する。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 細野幸雄 裁判官 有路不二男)